アピールについて深堀する記事、その③です。今回は「ボールを取りに行くルートとその妨害」についてです。
その①、その②ではボールを打つ動作の妨害のお話をしてきましたが、これらはどちらかというと妨害が起きたことが見て分かりやすい事象です。今回お話する「ボールを取りに行く動作(移動)の妨害」は、見ていて妨害があったかどうかの判断が難しい事象です。これもなるべく論理的に解析できるようにしていきましょう。
ボールへの直接のアクセスを空ける
「相手がボールを取りに行くルートを妨害しない」とは「相手のボールへの直接のアクセスを空ける」ということになります。これはルールブックにも書かれていて、プレーヤーの3大義務に含まれます。
直接のアクセスとは、「自分がボールを打ち終わった瞬間の、相手の立ち位置からそのボールの打点(ボールを打ち返せる地点)を真っすぐ結んだ線」、と説明できます。スカッシュプレーヤーは大体Tポジション(コートのほぼ中央)から相手のボールを取りに行くことが多いので、ここでの説明はそれを前提にしています。
それではいろんな場所、場面での「直接のアクセスを空ける」行為を見ていきます。
コート中央でのケース
図1はAさんがボールを打ち、Bさんが取りに行く場面です。Aさんの打ったボールが、赤いボールの地点と青いボールの地点、2つの違う長さに打ったとします。
赤いボールの長さだった場合、Tポジションからスタートしてボールを取りに行くBさんの、直接のアクセスは赤い→になります。AさんはTポジションに戻る時、Bさんを自分の前から通す形になるはずです。仮にAさんが打ち終わりに少しでも前方に出てしまうと、赤い→を通ってくるBさんにぶつかってしまい、妨害したことになります。
Aさんの打ったボールが青いボールの地点だった場合は、Bさんの直接のアクセスは青い→になります。すると今度はTポジションに戻ろうとするAさんの後ろ側を通ることになります。Aさんはそのルートを妨害しないように戻らなければいけません。
ここで言いたいのは、Aさんが打ったボールの長さでBさんの直接のアクセスのルートが変わるので、それに応じてAさんの妨害しないTポジションへの戻り方(Bさんとのすれ違い方)が変わるという事です。
コート前方でのケース
図2はコート前方でドロップなどを打った時に起こるケースです。黒いボールは、今Aさんが打ったボールが前壁に当たって跳ね返ってきたものです。それをBさんが直接のアクセスで取りに行きます。
青いAさんの位置から打っていた場合、打ち終わった後青い→の通り、若干左側に抜けてBさんの直接のアクセスを空けることになります。赤いAさんの位置であれば赤い→のように、少し後ろに下がるようにしてBさんと入れ替わることになります。
ここで言いたいことは、同じ場所にボールを打ったとしても、打った立ち位置が違うと避け方が変わってくるという事です。青いAさんの位置は後ろに下がるように抜けてしまうとBさんの直接のアクセスを妨害してしまいます。赤いAさんの位置は左側に抜けてしまうとBさんに接触してしまうでしょう。プレーヤーはそれを意識してTポジションに戻らなければいけません。
打ち終わった後にすぐにTポジションに戻らないほうがいいケース
スカッシュは基本ボールを打った人はすぐに避ける動作(Tポジションに戻る動作)に入った方がいいですが、場面によっては一瞬打ったところで止まった方がいい時もあります。
図3はAさんがコート中央付近からストレートを打ち、それを逆サイドの前方からBさんが取りに行くケースです。
この場合Aさんは、ボールを打った後すぐにTポジションに戻ってしまうとBさんの直接のアクセスを妨害してしまう事になります。ですのでBさんがボールを取りにTポジションを通過した後、Tに戻ることになります。
ちなみにBさんがこのボールに追いついて打ち返す瞬間、AさんはBさんのフロントウォールへの返球を妨害しないようにしなくてはいけません。そのためにいち早くAさんはTポジションに戻りたい訳ですが、先ほど言ったようにBさんが通過した後になります。ボールのコースが良くないとそもそも、Bさんの次の返球スペースから逃げられないでしょう。いろいろな技術が求められる場面です。
図4のAさんの状況は図2の赤いAさんと似た状況にあります。図2の説明ではAさんはBさんにぶつからないようにドロップを打った後、少し後ろに下がるように避けると書きました。
しかしスカッシュの展開的にはAさんはなるべく早くコート中央に戻りたいと考えます。つまり後ろに下がるのではなく左に動いてBさんにクロスなどを打たれても対応できる位置に行きたいのです。
その場合打った後すぐに左に動くと直接のアクセスを通ってくるBさんに当たってしまいます。そうならないように、Bさんが通過した後に左に動くのが妨害をしない戻り方になります。
Aさんの打ったドロップが大きくフロントウォールから出てくるボールだと、Aさんはやはり後ろに下がって避けざるを得なくなります。無駄なくすぐにTポジションに戻りたいのであれば、自分と相手の位置関係の把握、戻るタイミング、自分の打ったボールの精度などをすべて理解、コントロールしなくてはいけません。
妨害したらどう判定される?
ここまで「直接のアクセスを空ける」話をたくさんしてきました。ではそれを妨害してしまったらどう判定されるのでしょう。
一昔前は、アクセス中の妨害は「レット=やり直し」になる事が多かったです。ですが近年では(ルールブックの書き方が変わった訳ではないのですが)、妨害の具合によってはストローク(妨害を受けた人に得点)になる事が増えました。
整理すると以下の判定基準が考えられます。
1.妨害があったがそれがなくてもBさんはボールに間に合わなかった→ノーレット
2.Bさんが直接のアクセスではないルートを通ったことでAさんと接触し、アピールした場合→ノーレット
3.ほんの少しの妨害(接触)はあったがBさんのアクセスに影響を及ぼすものではなく、Bさんがアピールしても→ノーレット
4.Aさんが明らかにBさんの直接のアクセスを妨害した場合→ストローク
5.Aさんが避ける動作をして、明らかな妨害はしていないがBさんのアクセスには影響がある、といった具合の接触の場合→レット
といったパターンが考えられます。レフリーの立場で判定をしなくてはいけない時すぐにこの思考をするのは難しいですが、大体この5パターンを知っておけば大丈夫だと思います。
レフリーをやってみよう!
「アピールについてさらに学ぼう」というテーマで①、②、③とお話をしてきました。結局言えることは、「レフリングはとても難しい」という事です。
多くの場合試合では、勝者が次の試合のレフリーをすると書きましたが、「やりたくないっ」という気持ちも分かります。ですが他の多くの事と同じで、経験しないと上手くならないのがレフリングです。
無条件に嫌がるのではなく、こういったレフリングの理論を少しでもいいから知ったり、まだレフリーに自信がない場合は誰かにやってもらいながら横について学んだりするのもいいと思います。
オススメなのはマーカー(得点を記録したりコールを担当する人)をやりながらそれをやることです。たいていレフリーの隣に座るので、同じ目線で試合を見ることになりますし、自分のマーカーの仕事をしながらレフリングも学ぶことになるので、いろいろな作業を同時処理しなくてはいけません。それ自体がレフリーをする時の「見る」と「思考する」を同時にする訓練になります。
アピールについて考える、ぜひ出来る事からトライしてみて下さい。